カラリと爽やかな5月の陽気の中、宇治の名店「辰巳屋」さんでお昼をいただきました。
辰巳屋さんは、なんと1840年創業の老舗。
ちょうど「天保の改革」が始まった年に創業されたことになります。
辰巳屋さんは平等院からほど近い、宇治川沿いにあります。
辰巳屋さんならではのメニューが看板にもある抹茶料理。
抹茶をふんだんに使ったお料理がいただけます。
今回は、個室を予約。
お部屋は6人ぐらい余裕で入れそうな広さ。
2人で使うのがもったいないくらいです。
そしてお部屋からの眺望が素晴らしい。
この居心地の良いお部屋で、日がな一日、宇治川をぼーっと眺めて過ごしたいくらいです。
お待ちかねのお料理。
まずは、抹茶豆腐。
口に運ぶと、まずお出汁の香り高さに衝撃を受けます。
そして、時間差で口の中に広がる抹茶の香り。
出汁の旨みと抹茶の旨みの時間差攻撃(?)といった感じでしょうか。
出汁と抹茶ってこんなに相性が良いのか、と新たな発見です。
飲み物はノンアルコール梅酒。
ロックとソーダ割りです。
ふだんは、繊細な料理を食べる際には、味の濃い飲み物はあまり飲まないようにしています。
が、これは注文して正解!
すっきりとした甘さと酸味で、非常にさわやかな喉越し。
後味もしつこくなく、料理の味を邪魔しません。
続いて季節の八寸。
レンゲに盛られているのは、生湯葉とカニ身の抹茶和え。
湯葉のもちもちとした歯応えにカニの旨み、抹茶の香りが渾然一体となって、口の中が「美味しい」で満たされます。
まさに「口福」とはこのこと。
その他のお料理も、
「素材の持つ美味しさを最大限引き出しました」
といった美味しさ。
シンプルな味付けに抹茶の風味が相性抜群です。
さらに百合根の抹茶掛け。
ほくほくの百合根にほんのり甘い抹茶ソースが掛かっています。
抹茶ソースは、このソースだけスプーンですくって食べたいくらい美味しい。
一品ごとに抹茶のポテンシャルの高さに驚かされます。
抹茶は一休みして、お造り三種盛り。
まぐろと甘鯛と、紋甲イカです。
まぐろは臭みもなく、とろっと溶けるような味わい。
一方、甘鯛はコリッとした歯応えに、噛むほどに広がる甘さが最高。
そして、紋甲イカはねっとりもちもちでじんわりとした甘さ。
新鮮な魚介の美味しさを改めて噛み締めました。
お造りに続いて季節の炊き合わせ抹茶ジュレ掛け。
今回、一番のお気に入りがこの料理。
抹茶ジュレが出汁と最高に合うんです。
抹茶が加わることで、出汁の旨みが倍増する不思議。
そして後味に口の中に広がる抹茶の香りが美味しさの余韻を引きずります。
炊き合わせの美味しさに浸る間もなく、季節の田楽三種盛り。
こんにゃく✖️赤味噌
粟麩✖️抹茶味噌
茄子✖️柚白味噌
の組み合わせです。
こんにゃく✖️赤味噌はもちっとしたこんにゃくに赤味噌が間違いない美味しさ。
茄子✖️柚白味噌はとろりとした茄子と白味噌の甘さに柚がふわっと香る爽やかな後味。
粟麩✖️抹茶味噌はもちもちの粟麩の食感に味噌と抹茶の風味がなんとも絶妙な味わい。
どのお料理も、抹茶はしっかり存在感を残しますが、決して調和を崩さない名脇役といった感じです。
季節の油物、天ぷらです。
エビに湯葉、椎茸と抹茶衣で揚げた貝柱。
抹茶塩でいただきます。
エビの天ぷらは、煎餅を砕いた衣で揚げてあるとのこと。
この煎餅衣のザクザク感と口に広がる米の香り。
さらに後を引く、抹茶の風味は未体験の美味しさ。
正直、
「抹茶塩か、さほど珍しくないな」
と思っていたんです。
しかし、一般的な抹茶塩よりも10倍くらい抹茶感が強い。
抹茶塩というよりも、塩味の抹茶と表現した方がしっくりきます。
続いてはニシンの茶そば。
今回のお料理の「出汁の旨味」の集大成とも言えるメニューです。
甘辛いほろほろのニシンに出汁の旨味がギュッと凝縮された出汁が最高に合います。
「ニシンそばがこんなに美味しい食べ物だったなんて……。」
と、今まで食わず嫌いだったことを後悔しました。
留物は白味噌「うずみ豆腐仕立て」。
ご飯の上にかかっている青のりのようなものは抹茶の原料となる碾茶です。
少し硬めのご飯に白味噌の上品な甘さが体にじんわり染み込む美味しさ。
碾茶の香りは意外にも控えめで、やはりここでも名脇役。
そして最後はデザート。
誕生日であることを伝えておいたら、とても素敵なデザートプレートを用意してくださいました。
デザートは抹茶チーズケーキにイチゴ、抹茶おからドーナツです。
抹茶チーズケーキはチーズケーキというよりも抹茶のテリーヌのような濃厚な味わい。
ケーキ屋さんでもこんな美味しい抹茶チーズケーキはそうそう食べられない、と思えるほど絶品です。
抹茶おからドーナツは外はサックリ、中はしっとりとした食感で、ふんわり抹茶が香ります。
イチゴもとても甘くて大満足。
ちなみに、
「今回のコースでだいたいお薄(一般的な抹茶)、七、八杯分の抹茶を使用しているんですよ」
とのこと。
調べてみると、お薄一杯に含まれるカフェイン量はコーヒー一杯とほぼ同量だそうです。
なんでも、葉っぱをまるごと使用している分、摂取するカフェイン量はコーヒーより多いのだとか。
食べるエナジードリンクといった感じでしょうか。
あと、ビタミンCも豊富に含まれていて美容にも良いそうです。
スーパーフード「抹茶」、恐るべし。
さて、この辰巳屋さん、個室の他に大部屋、カウンター席もあります。
どの席も共通して、落ち着いた雰囲気。
ゆったりと贅沢な気分でお食事を楽しむことができそうです。
当初は京都の老舗ということで、
「敷居が高いのでは?」
と先入観がありました。
しかし、心地よい距離感の接客でとても居心地が良い。
季節ごとに訪れたいと思えるお店でした。
腹ごなしに宇治川の風光明媚な景色を眺めながら帰路につきます。
しかし、満腹なのに体は軽い。
和食ってすごいな、と改めて実感しました。